もしも学園生活 Last



・・・・・・・。


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時は経ち、キュピルにとって地獄の期末試験を無事乗り切って数週間たった頃。
学校は冬休みへと入り長期休暇となったキュピル。
今日も今日とて遅寝遅起きを続けダラダラと怠慢な日々を過ごしていたが・・・?



ファン
「キュピルさん、賞状とメダルが届きましたよ。」
キュピル
「んがっ・・・?」

冬休みに入っても12月22日まで部活が続いているがすっかり休み癖がついてしまい若干昼夜逆転気味のキュピル。
一応学校には足を運んでいるが昼寝している事が多い。

ファン
「前回の科学コンクールの表彰です。」
キュピル
「あぁ、俺メダルとか賞状興味ねーし・・・。」
ファン
「それは残念です。いつも通りこのメダルと賞状は研究室に残しておきましょう。
この賞金10万円はどうしましょうか。」
キュピル
「俺賞状とメダル超興味あるぜ!!」


すぐにキュピルが目を覚ましファンの隣へと移動する。突然の態度に違いに普通の人間ならびっくりするが
人間でないファンは全く驚きもしなかった。

ファン
「これが賞状とメダルですよ。」
キュピル
「ん、メダルに人の顔がかいてあるな。誰だこれ?ベロ出してるけど・・・ピエロ?」
ファン
「アインシュタインですよ。相対性理論や光量子説を発表した有名な物理学者ですよ。」
キュピル
「あぁ・・・そういえば期末試験とかで出たような気もするな・・。
んなことよりこの賞金の事なんだけど勿論半々だよな!?な!?」

ルイ
「1:9が妥当じゃないの?キュピル君大して貢献してないでしょ?」

キュピル
「なっ、ルイ!!?」

突然ルイが研究室へ入ってきた。様子でも見に来たのか分らないがキュピルにとってはたまったものではない。
ルイが軽蔑したような目でキュピルを見続けている。

ルイ
「ううん、1:9じゃ可哀相よね。」
キュピル
「そうだ、あまりにも可哀相だ!俺が。」
ルイ
「0.05:9.95が妥当かしら。」
キュピル
「俺5千円かよ。」

ルイ
「500円よ、馬鹿!」


キュピルがうおーっと叫びながら地面の上でもがき苦しむ。

キュピル
「じ、持病がっ・・!か、金を・・金を!!」

ルイが研究室に文化祭でキュピルが使っていたハリセンを見つけ、思いっきりキュピルの頭を叩く。

ルイ
「ファンさん。キュピル君が今回の発明にどれだけ貢献しましたか?」

キュピルが泣き叫びながら必死にファンへ頭を下げ続け何かを懇願している。
それを見たルイがキュピルに頭突きを喰らわせ黙らせる。

ファン
「そうですね、文化祭での発表の時は沢山人を集めてくれて知名度を大きく上げてくれましたね。
去年は壁の先を覗き見る事の出来る双眼鏡を発明したのですが全然見に来てくれませんでしたから。」
キュピル
「何それめっちゃ欲しい。それでキューの部屋をn・」
ルイ
「激滅!!!」


ルイがキュピルにマジ殴りラッシュを決めキュピルを瀕死状態に追い込む。

ファン
「・・・っと、その他にもキュピルさんは色々貢献してくれたのですが・・・おや?キュピルさんは何処に?」
ルイ
「人類の敵を抹殺しました。」
キュピル
「男の英雄・・・だぜ。」

ルイ
「滅!!」


キュピルの後頭部を踏みにじり更に追い打ちをかける。

ファン
「ひとまずここは平等に賞金は半々に分けましょう。」
キュピル
「ありがとう、ファン!!!」

ルイ
「わっ!!」


キュピルが即座に起き上がりファンの元へひれ伏す。
ファンが賞金の入った袋から五万円取り出しキュピルに差し出す。

キュピル
「いよっしゃあぁぁーーー!!臨時収入ーー!!」

ルイ
「全くもう・・・。調子良すぎるんだから・・。」
キュピル
「ルイ!臨時収入が入ったからどっか遊びに行こーぜー!」
ルイ
「え?ちょ、ちょっと。部活あるから無理に決まってるじゃない!!」
キュピル
「んじゃ24日は?」
ルイ
「に、24日!!その日何の日か知っててい、い、言ってるの?」

キュピルが首を傾げその日何かあったか思い出そうとする。

キュピル
「・・・んー、何かあったっけ。」
ルイ
「クリスマスイブよ!」
キュピル
「あー、クリスマスか。そういえばそんな日もあったな・・・。そうか、でもクリスマスか。
クリスマスの日って皆忙しいしな・・・。ルイももう予定あるのか。そりゃ残念。」
ルイ
「あ!い、いや!ち、違うって!だ、だから遊びに行くってのはつまり・・で、デート・・・だから・・・。」
キュピル
「最後声小さすぎてよく聞こえなかったぞ。まぁいいか、忙しいんだったらキュー誘ってみるかr・・・。」
ルイ
「滅!!!」








キュピル
「理不尽だ・・・。俺今ルイを怒らせるような事を言ったか・・・・・?」

ルイ
「私の予定は空いてるから煮るなり焼くなり好きにすればいい!」

キュピル
「壊滅的におかしな事言ってるぞ。」





・・・・・・。


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12月24日。

クリスマスイブであるこの日はやはりカップル達の間では特別な意味合いが強い。
街を歩けば手を繋ぐ男女、腕を組んで歩く男女・・・。
そもそも今日一人で街を歩いている奴をまだ見て居ない。

そんな人混みに紛れるようにしてルイが駅前の大きなモニュメント前でキュピルを待っている。

ルイ
「・・・・遅い・・・。」

腕時計を目にする。・・・九時半。

ルイ
「・・・遅い・・!!」

程無くして誰かが走ってこっちにやってくるのが見えた。

キュピル
「お、早いなー。今日は俺ちゃんと遅刻しn・・・。」
ルイ
「遅い!」


いきなり遅いと言われキョトンとするキュピル。
腕時計を確認するが時刻は九時半。

キュピル
「・・・いや、時間ぴったしなんだが。」

ルイ
「え、あ、・・・そ、そうなんだけど・・・。」

・・・一人で勝手にドキドキして居ても立ってもいられなくなったルイは八時からずっと待ち合わせ場所で待っていた。
待ち合わせ時間は九時半と言われていたので別にキュピルは遅刻して来た訳じゃない。

ルイ
「う、うん・・・えっと・・ごm・・。」
キュピル
「お、ってか今日のルイ滅茶苦茶お洒落してるなー。」

いつもキュピルが見ているルイの姿は制服姿であるが今日のルイは私服。それも御洒落した姿。
少し長い肩掛けの黒い布生地、その下に見えるキャミソール。
制服姿で見慣れてはいるが少し生地の硬そうなプリーツスカートと黒タイツ。
大人としての魅惑を今日のルイは持っていた。

ルイ
「え?あ、そ、そう!今日のために新しい服を・・。
キュピル
「ん?回りの音でよく聞こえなかった。」
ルイ
「(あぁ、もう・・!何かデートって事を意識しちゃうと急に声が・・・。)」

いつもの自分は何処へ消えた。
とりあえず気持ちを切り替えて・・・・。

ルイ
「・・・それで、今日は何処行くの?当日まで秘密って言われていたけど。」
キュピル
「へっへっへ、じゃーん!これを見てみろ!」

キュピルがポケットから二枚のチケットを見せる。

ルイ
「ん?映画?」
キュピル
「違う違う。これはつい最近完成した東京・ウルトラスカイツリーの入場チケットだ。」
ルイ
「あれ?!入場チケットってもう一般販売されていたっけ?」
キュピル
「7月11日までは予約抽選だ。試しに二枚分ネットで買ってみたら当たっちまった。外れたら別の所行く予定だったんだが。」
ルイ
「へぇー!凄いね!・・・・ところでキュピル君。」
キュピル
「ん?」
ルイ
「私高い所苦手・・・。」

キュピル
「なっ。」


・・・・。

ルイ
「あっ、ごめん・・!せっかくチケット取ってもらったのに・・・。そのチケット代は弁償するから今日は別のt・・・。」
キュピル
「でもそんなの関係ねぇっ!!」

ルイ
「え?」



・・・・。

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ルイ
「鬼!悪魔!!わああああ!!!」


嫌がるルイの腕を引っ張って無理やり東京・ウルトラスカイツリーへ連れて行く。
エレベーターの中へ押し込もうとした時ルイが全力で抵抗してきたためエレベーターガールが気を使って先に他のお客さんを上層階へと乗せ、後から二人で来るよう言ってくれた。
激しい攻防の末何とかエレベーターの中へルイを押し込む事に成功し現在高さ1500mある展望台へと上っている。

どんどんエレベーターが上がって行き小さくなっていくビル街を見てルイの顔が青ざめる。

ルイ
「馬鹿!!何で、何でこんな事!!」

キュピル
「泣き叫ぶルイを一度でいいから見てみたくて。」

ルイ
「裂滅!!!!!!」

ルイがエレベーターの中で再び暴れまくりキュピルの顔面をタコ殴りする。

キュピル
「やめっ!エレベーター揺れてる!落ちる!!
もうだめだ落ちる!!!
ルイ
「ひ、ひいいぃぃぃっ!!!お、落ちるの!!?」


ルイが即座にキュピルに抱きつきエレベーターの落下から救って貰おうとする。

キュピル
「うっそぴょーん。ルイが俺に抱きついてるwwとうとう俺にもラッキィースケベェの出番が来たようだなぁwww」

ルイ
「死・滅!!!」








エレベーターガール
「ようこそ、東京・ウルトラスカイツリー展望台h・・・って、お、お客様!?エレベーター内で何かございましたか!?」
キュピル
「猛獣が暴れてました。」

エレベーターガール
「も、猛・・獣・・・?」

エレベーターの中を点検するエレベーターガール。・・・別にライオンが居る訳ではない。
一方、その猛獣扱いされたルイは・・・。

ルイ
「だ、だめ・・・キュピル君・・絶対・・・絶対私から離れないで・・・!!
一人で行かないで!!わ、私と一緒に!!!」
キュピル
「うぅ〜む。これも中々妄想かき立てられる台詞だ。へっへっへっ・・・。」

ルイ
「滅!!!」

キュピル
「おぉーっと!そうはいかない!!」

ルイの攻撃を避け窓際へと移動する。

ルイ
「こらぁっーー!!待
ぇーー・・・・。」

段々と声が小さくなっていく。
それもそのはず、今キュピルはルイの傍から離れておりしかもキュピルの背中には
まるで模型のように小さくなっている街並み。ぞぞぞっとルイが震え背筋が寒くなる。

ルイ
「た・・・助けて・・・。」
キュピル
「そんなに怖いか?確かにそっち方面は落ちたら死ぬけど、こっちは落ちても海面だから痛いだけで済むぜ。」
ルイ
「そ、そういう事じゃないの・・・!!」

ルイの足ががくがくと震えている。それを見てキュピルがニヤリと笑う。

キュピル
「助けてほしい?」

ルイが必死に首を縦に振る。

キュピル
「早く降りたい?」

ルイが必死に首を縦に振る。

キュピル
「今度服だけ溶ける液体開発したらかぶってくれる?」
ルイ
「最っっっ低!!!」


ルイの強烈な右ストレートがキュピルの顔面にクリーンヒットし東京ウルトラスカイツリーの窓ガラスを突き破って海面に落ちて行った。

ルイ
「あっ!!!」

今更になってとんでもない事をしたと焦るルイ。・・・近くに遊覧船が通っている。


・・・・。

・・・・・・・・・・・・。


キュー
「フレブラ!今日キュピル先輩とルイがデートしてるって本当なんですか!?」
マキシミン
「あぁ、間違いねぇっ。今日あいつ東京ウルトラスカイツリーに行くらしいから、この遊覧船からあいつが見えるはずだ・・・。っつかフレブラって何だおい!!情報提供してやったのによ!

密かにメールアドレスの交換をしていた二人。
キューのキュピルに対する強い一方的な想いを既に見抜いていたマキシミンは適度に情報を垂れ流し
見返りに報酬を貰うという至極中二病なやり取りを行っていた。

マキシミンが遊覧船の甲板に立ち双眼鏡を覗き見る。・・・展望台がくっきり見える。キュピルとルイはどこだ?
やや右の方へ双眼鏡をずらした瞬間突然真っ暗になった。

マキシミン
「あ?急に何も見えなくなったぞ。」

キュピル
「うおわああぁぁぁっっっーーーーー!!!」



キュピルがマキシミンの上へ落下し甲板を突き破って海へ落ちた。

キュー
「あ、キュピル先輩!!!大丈夫ですか!?」
キュピル
「いっててて・・。海に落ちていなければ即死だった・・。」

マキシミン
「十分即死レベルだろうがおらあぁっっ!!!」





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キュー
「キュピル先輩酷いですよー!クリスマスの日に私を誘わないなんて!」
キュピル
「こういうのは早いもん勝ちなんだよ。」
マキシミン
「早いも糞もねーだろ、こういうの。」


タオルで濡れた髪を拭き、濡れた服は仕方ないので着たまま近くの店でドライヤーを借りて延々と当て続けて乾かす。

キュー
「それで、ルイはまだあの展望台?」
ルイ
「いや、いるから・・・ちゃんと・・。」
キュー
「どこどこー?」
ルイ
「(完全に舐められてるわね・・・私・・・。)」
キュピル
「ルイー、反省してるかー?」
ルイ
「キュー風に言わないで。」


ルイが別のドライヤーでキュピルの服を乾かすのを手伝う。

マキシミン
「居れば居るほど妬ましい。」

キュピル
「へーへーっと。・・・・ん。・・・・・うわああああああああああああ!!!!」
ルイ
「わっ!何!?」

キュピルが突然立ち上がり絶望の声をあげる。

キュピル
「財布!財布がない!!もしや海に落ちた時!!」
マキシミン
「お、あんな所に財布が浮かんでるぞ。」

双眼鏡の先には海の上を漂っているキュピルの財布。

キュピル
「俺の福沢諭吉ぃぃぃ!!!」

ルイ
「きもい。」



キュピルが再び海に飛び込み遠くにある財布を回収しに行く。
が、その最中財布は偶然通った遊覧船に轢かれてしまい何処に行ったか分らなくなってしまった。

キュピル
「うおぉぉぉぉぁあああああぁぁぁっっっっーーーー!!!」







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キュピル
「俺の高校生活とは何だったのか。」

ルイ
「財布無くなったのは高校生活と関係ないでしょ!」


結局財布が手元に戻らなかったキュピルは仕方ないので昼を迎える前から解散し自宅へと帰って行った。
キューが慰めに食事を誘ってきたがそんな気分ではなかった。一方マキシミンは延々と4万入ったキュピルの財布を探し続け海へ飛び込み猫ばばをもくろんでいる。


キュピルの自宅へ辿りつくと真っ先に服を着替え、着替え終えると大きなソファーの上で横になった。

キュピル
「あぁ、俺の4万・・・・。」

ルイ
「まぁ4万無くなったのは確かに痛いけど・・・。」
キュピル
「・・・はっ、考えてみれば俺がルイに殴られて東京ウルトラスカイツリーが叩き落とされなければ財布は無くなる事はなかった!
つまりこれはルイの責任!!」

キュピルが即座にソファーから起き上がりルイの目の前で威嚇する。

キュピル
「ッシャァーーーー!」

ルイ
「うっ、だ、だってあれはキュピル君が無理やり私の嫌がる事したからっ!!」
キュピル
「4万!4万!!」

ルイ
「そ、そんなお金今手元にある訳ないじゃん!!!それに私は多分悪くない!」
キュピル
「金がないならその体で払っt」
ルイ
「滅!!!!」







ボコボコに叩きのめし気絶したキュピルを玄関に放り投げる。去り際に「変態!!」と罵倒してルイはキュピルの家から去って言った。




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こうして、高校生活1年目のクリスマス生活は一瞬で過ぎ去り二人の間も何一つ進展する事なく1年を終えてしまった。




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キュピル
「あけましておめでとう!今年もよろしく!!」




・・・・。


キュピル
「私にお年玉を!!」



・・・・・。


キュピルしかいない自分の家の中で叫び声をあげる。

キュピル
「くっそぉ〜・・・。・・・しょうがねぇな・・・。一人の宿命だ・・・。ってか毎年の事だしな・・・。」

暇で暇でしょうがないからまたルイでも誘って何処か行こうと試みたが今日は親の実家へ帰省しているらしく
相手できる状況ではないようだ。
つまりキュピルは完全に暇を持て余していた・・・・のだが。

キュピル
「・・・・・・。」

携帯に届いている一通のメール。

・・・・・親からだ。



・・・・・・その内容はこの先の人生を大きく変えてしまうものだった。






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ルイ
「キュピル君。あけましておめでとう。」

三学期登校初日。冬休みが終わりルイはいつも通りキュピルの家の前まで迎えに来てくれていた。

キュピル
「あけましておめでとう。」
ルイ
「この前はごめんね。私ちょっと親の言う事には逆らえなくて。」
キュピル
「ハハハ、そんな感じするな。でも親の教育をずっと受けた結果頭が良くなったんだからむしろ感謝したほうがいいんじゃないのか?」
ルイ
「え?・・・あ、あー・・・うん。そうだね。」

・・・何か違和感を感じる。

ルイ
「・・・キュピル君。何かあった?」
キュピル
「ん?何かって?」
ルイ
「何かそんな風に返事返してくるなんて全然予想していなかったから・・。」

親の言う事には逆らえなくて の後に続くキュピルの言葉はてっきり茶化してきたり馬鹿にしてきたりするのではっと
想像していたのだが、まさか親に感謝しろと言われるとは全く予測していなかった。

キュピルに両親はいる。だが小学生の頃から両親は頻繁に海外出張してしまい一週間に三日以上は一人で過ごしていた。
中学生に入ってからは両親はずっと海外へ長期出張している。
キュピル自身、自分の両親の話しはあまりしたがらず自分の親でなくても他人の親の話しはどちらかといえば避けたがる方だ。

そんなキュピルからあのような返事が帰ってくれば長年いるルイならすぐに違和感に気付く。

ルイ
「何かあったの?」
キュピル
「・・・実は・・。」
ルイ
「・・・・。」

固唾を飲んでキュピルの次の一言を待つ。

キュピル
「ついに服だけ溶ける液体を冬休み中開発してもらっちまって、ぜひルイn・・」

ルイ
「滅!!!」



この時ルイは確信した。別に何でもなかった・・と。
ボコボコに叩きのめしたキュピルを引きずりながら学校へと向かった。




・・・・・。

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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



テルミット
「皆さん、おはようございます。そしてお久しぶりの方はお久しぶり。
冬休みの間皆さん健康にお過ごし出来ましたか?夏休み同様、長い休みが終わったので緩んだ気を元に戻し
一日一日、しっかりと勉学に励んでくださいね。」

いつも通りのホームルームを終え、皆は次の授業の準備を始める。
ルイも同様に次の授業の準備を始めていたのだが、ふと水が飲みたくなり廊下へ出ると少し離れた所で
キュピルとテルミット先生が何か話し合いをしていた。

ルイ
「・・・・?」

・・・・ここからではよく聞こえない。
けど、どうせまた何かやらかして叱られているのだろうっと自己解釈し水分補給して教室へ戻って行った。


・・・・・。


キュピル
「先生。そういう事なんです。」
テルミット
「・・・唐突ですね、何とかご両親へ連絡をつけたい所ですが中々繋がらない・・でしたよね?」
キュピル
「はい。」
テルミット
「・・・わかりました。キュピル君はどうしたいのですか?」
キュピル
「・・・俺は・・・出来れば残りたい。だけど俺も親には逆らえない。」
テルミット
「・・・俺『も』?」
キュピル
「あぁ、すみません。そこはスルーしてください。とにかく俺は残りたいです。せっかく楽しい高校生活をここで終わりにしたくありませんから。
テルミット
「わかりました。キュピル君の意思がそうであるならば私の方からもご両親へご相談してみます。」
キュピル
「よろしくお願いします。」
テルミット
「それで予定通り海外移住される場合は何時頃予定しているのですか?」

キュピル
「実は・・・・。」





・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・。



ファン
「キュピルさん。お久しぶりですね。」
キュピル
「あぁ、お久しぶりです。ファン先輩。」
ファン
「冬休みはどのようにして過ごしていましたか?」
キュピル
「んー、コタツの中に入って食っちゃ寝してたかなー。あの幸せ感と来たら・・・。ファン先輩はどう過ごしていたんですか?」
ファン
「僕も似たような事をしていましたよ。コタツの中で科学研究を・・」
キュピル
「いや、意味分らんから。」


ファン
「そういえばキュピルさん。今回は折り入ってキュピルさんに頼みがあります。」
キュピル
「ん?」
ファン
「僕はもうすぐここを卒業しますがその時科学研究部の部長をキュピルさんにお願いしたいのです。」
キュピル
「部長かー。よし、俺に任せろ!」
ファン
「本当ですか?非常に嬉しいです。ここの部活が存続できるかどうか本当に心配でしたので。」
キュピル
「まぁ、ファン先輩みたいに凄い物は作れないけどな・・・。一応科学の勉強は続けてみる。」
ファン
「勉強すれば知識は追いつきます。ですがどんなに勉強しても発明する発想力は生まれません。
キュピルさんにはその発想力があります。頑張ってくださいね。」
キュピル
「おう。」



ドタバタ


誰かが走ってこっちに向かってきている。あぁ、これも懐かしい。

輝月
「キュピルよ!!」
キュピル
「輝月先輩、一体どうしたんですか?まだ五時じゃありませんよ。」
輝月
「うぬ、分っておる。じゃが今日だけ時間をくれぬか?ファンよ、頼む。」
ファン
「しょうがないですね。今日だけですよ。」
輝月
「すまぬ。」
キュピル
「では道場へ行きますか・・・。」
輝月
「道場へは行かなくてもよい。」
キュピル
「ん?では一体何を?」
輝月
「キュピルよ、お主に折り入って話しがある。ワシはもうすぐここの高校を卒業してしまうが・・・。」
キュピル
「剣道部の部長を引き継いでほしいっと?」
輝月
「ぬっ・・・そうか。お主はもう人の心が読める程成長したのじゃな。
初めて出会った時のお主の貧弱差は影も形もないのぉ。」
キュピル
「いや、始めから思いっきりベタ褒めされていた記憶があるが。」

輝月
「どうじゃ?部長の座。お主がやってくれぬか?」

キュピルが少し考えた後・・・そして。

キュピル
「わかりました。私が高校二年生になりましたら部長を引き継ぎましょう。」
輝月
「うぬ、頼んだぞ。他の部では既に三年は部活をやめ部長引き継ぎを行っているようじゃがワシは最後までおる。」
キュピル
「あいあいっと。」


ダバダバダバ


ヘル
「キュピル!!部(ry」
キュピル
「リフティング部はお断りします。」







・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。






それから数日。普段と変わらない、いつもの学校生活が続いていた。
キュピルはいつも通り馬鹿やっていてマキシミンは居眠りばかり。二人を叱り続けるテルミットとルイ。
授業がおれば研究室で科学研究部の活動を行い、三十分経過したら剣道。

来年になってもきっとこんな日々が続いて行くのだろうっとルイはずっとそう思っていた。
キューだけがちょっと不安の種だけれど学年が違うのでそう気軽にキュピルの教室にやってくる事はない。

そう、卒業するまでずっとこの学園生活は続いて行く。

ルイはそう思っていた。



・・・。


ある時。ルイがキュピルを迎えに行くと熱があると言い学校を休んだ。
体に悪い食生活を続けていた罰とルイはキュピルを叱り一人学校へ向かう。

そして翌日。まだ体調が悪いかもしれないとキュピルに気を遣いそのまま学校へ向かうルイ。
この日もキュピルは風邪で休んでいた。

その翌日も、そのまた翌日もキュピルは学校を休んでいた。

ルイ
「(・・・キュピル君凄い体調悪いのかな・・・。また何か暖かい料理でも作ってあげようかな・・。)」

1月。冬の寒さもピークに迫ってきている。
帰りにキュピルの家へ寄ろうっと思ったその時。朝のホームルームでテルミットが衝撃的な発言をした。

テルミット
「皆さんに一つだけ謝らなければいけないことがあります。」
マキシミン
「あ?先公が謝る?」

一秒後、マキシミンの額に一本の矢が刺さるがテルミットは話しを続けた。

テルミット
「ここ数日間の間キュピルさんがずっとお休みになられている事はご存知だと思います。」
ルイ
「風邪って言っていましたけれど・・・もしかして重症なんですか?」

風邪とはいえどキュピルがこんなにも長い間学校を休んでいるのは少し珍しい。
しかしルイが思っていた事とは全く違う答えが返ってきた。

テルミット
「キュピルさん。実は風邪何かではなく・・・引越しの準備をするために休んでいました。」
今日からご両親の意思に従い海外へ移住する事になっています。」

キュピルと親しい者達が一斉に驚きの声をあげる。
特に動揺しているのはルイとマキシミンだ。

ルイ
「せ、先生!!?キュピル海外に・・行ってしまうんですか!!?私そんな事一言も聞いていn・・・。」
テルミット
「キュピルさんはこの事は当日になるまで隠すつもりだったようです。
私に相談を持ちかけた時も『この件は俺が海外に行ってしまうまで秘密にしてください』っと仰っていましたので・・・。
・・・彼の意思を尊重するのであれば私は明日まで秘密にしておかなければいけなかったのですが・・・。
私は彼の意思だけではなく、彼の事を想う貴方達の意思も尊重しています。」
マキシミン
「あの野郎!!勝手に黙りやがって!!金返してもらってねぇぞ!!!ぶっ殺してやる!!」

マキシミンの額に三本の矢が刺さるがマキシミンの叫びは止まらない。

ルイ
「先生!キュピルは何時に空港へ出発するのですか!?」
テルミット
「午後1時の便に乗ると仰っていましたので時間を考えればもうすぐ家を出ると思います。」

その言葉を聞いたルイとマキシミンが即座に教室を飛び出し学校から飛び出て行った。
テルミットは二人の行動を黙認し出席簿には出席のチェックを入れる。


・・・・。

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



マキシミン
「おい、キュピル!!」

マキシミンがキュピルの家の扉を思いっきり蹴る。しかし返事はない。
ルイが息を切らしながらようやくキュピルの家へ辿りつく。

ルイ
「鍵は・・・!?」
マキシミン
「あ?・・・・!鍵開いてるぞ!あいつまだ居るかもしれねぇ!」

マキシミンとルイがキュピルの家の中へ入る。
家具や家電は残っており引っ越しの気配はしない。

ルイ
「キュピル!!」


ルイがキュピルの名を叫ぶ。しかし返事はない。
マキシミンがキュピルの部屋に突撃するが誰も居ない。・・・もう出発してしまったようだ。

ルイ
「何で・・・。何でお別れの言葉も言わずに突然・・・。」

ルイが嘆き悲しみその場に座り込み泣きだす。
数秒後、マキシミンが叫び声をあげる。

マキシミン
「くそったれぇぇっ!!!空港まで行ってやる!!!」



マキシミンがキュピルの家から飛び出すがルイは追わずその場で泣き続けた。
一時間程泣き続け、泣き疲れてしまったルイはその場で横たわり気絶するようにして眠ってしまった。





・・・・。



・・・・・・・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




ルイが次に起きた時は夕方だった。
・・・もうキュピルは飛行機に乗ってしまっただろう。
こんな所で泣いていないでマキシミンの後を追い空港に行けばよかっただろうか・・・。
後悔でまた涙が出そうになったがグッと堪える。

ルイが階段を上りキュピルの部屋へ移動する。
・・・キュピルの机の上に一枚の手紙が置いてあった。

手紙には大きく 『ルイへ』 っと書いてあった。

ルイ
「あ・・・・。」

震える手で手紙を手に取り中身を見る。
そこにはある曲が入ったCDと歌詞カード、そして短いキュピルのメッセージが入っていた。
メッセージはこう書かれていた。


『お別れの挨拶もしなくて本当にごめん、ルイ。
手紙だから言えるけれど、俺はルイの事が好きだった。好きで好きで仕方がなかった。
気付かない振りもしていたが密かにルイが俺に好意を寄せていたのも知っている。
だからこそ、別れの挨拶をしに行ったらきっと俺は悔しさと寂しさとルイへの愛しさで狂ってしまうと思った。
もうルイに言葉で言い表せる表現が存在しない。最後に一言書いて海外へ行ってくる。

ありがとう、愛してる。』


ルイ
「一言じゃなくて二言書いてあるわよ・・・。」


・・・この手紙。いつものキュピルだ。
このやり取りの最後がまさか手紙だったなんて・・・。

改めて涙が溢れ手紙を濡らす。









・・・・・・・。




・・・・・・・・・・・・・・・・。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。









それから10年後。








ルイは公務員に就職し数年経過した今日。
通勤途中はいつもこの曲を聞く。


そう、キュピルがルイに残した手紙の中に一緒に入っていたあのCD。









いつかさらばさ

『もしも君が心なき言葉に傷ついたとしても
僕にできることといえばそれを茶化してやれる程度
特に気の利いたセリフの持ち合わせなんてないけど
時間の許す限り君の横でおちゃらけていたいよ
そうさこれが僕のすべてさ どうせいつかはさらばさ

僕が君について何か知っていることといったら
君が紅茶に砂糖を三つ入れるってことだけさ
こんな言い方じゃ誤解を招くかもしれないけれど
他人(ひと)が二人でいるにはそれぐらいが丁度いいんだ
そうさ合言葉はいつでも どうせいつかはさらばさ

耳を劈(つんざ)くほどに鳴り響く沈黙を塗り潰すように
君は聞く「ねえ、私は一体あなたの何なの」
そんな時僕は笑って言うのさ
「どうせいつかは…さらばさ」

そうだ君に一つだけ聞いておきたい話があるよ
君は僕を世界で一番大切と言うけれど
世界がどれほどの廣さかなんて皆目検討がつかないぜ
つまり君の瞳の置くに映っているのは本当に僕なのかい
あらゆるすべてのことを
二人で分かち合おうとした時に
僕ら初めて本当の孤独を味わうことになるのやも
そして独り彷徨い歩き続ける寒空の下
改めてお互いの大切さに
気づける日がくるぜ 確信はないけど
そうさそれが今の答えさ どうせいつかはさらばさ

どこにでも転がっているよな形のない幸せの中で
たまに思う僕はこの先どこへ行くのだろう
それはそうと今夜は月がキレイ
ねえ、どうせいつかは…さらばさ

愛しさも切なさも君を想うが故生まれるもので
だから目を背けることなく
受け入れなきゃならないことなんだろう
そうさこれが僕のすべてさ
どうせいつかは…さらばさ…』







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午後五時半。市役所の業務時間が間もなく終わろうとしていたある時。
一人のスーツ姿の男性が入ってきた。

スーツ姿の男性
「失礼、海外から戻ってきたので転入の届け出に来たのですが。」
ルイ
「申し訳ございません、転入届けは午後五時までとなっております。」
スーツ姿の男性
「午後五時まで?それは参ったな・・・。そうだ、別の用件もある。」
ルイ
「何でございましょうか。」
スーツ姿の男性
「私は海外である液体を開発し科学ノーベル賞を受賞した。」
ルイ
「それは凄いですね。
(ただの妄言・・・?もうすぐ閉めの作業しなければいけないのに・・・。)」

スーツ姿の男性がビジネスバッグから一本のフラスコ瓶を取り出した。中には紫色の液体が入っている。

スーツ姿の男性
「これがその液体だ。服だけ溶ける液体何だが今度こそかぶってk・・」
ルイ
「滅!!!!・・・・え、キュピル!?」




反射的にルイが大人になったキュピルを殴り飛ばす。
キュピルが壁まで吹き飛ばされ手に持っていた液体も壁に叩きつけられフラスコ瓶が割れる。
中に入っていた液体がキュピルにかかり、その後警察沙汰へ発展したがそれはまた別の話し。




もしも学園生活   ――終




後書き

勢いで作ったこの小説。しかしちょっとした思い入れとテーマがある。
人生の中で生涯最も大切な友人が出来、そして最も楽しい学生生活は高校だと思っている。
小学校、中学校と比べて高校からは行ける範囲が広がり大人一歩手前まで来る。
高校生は大人に近い事が出来、かつ子供だから許されるというギリギリの年齢。

成人すれば高校生なら許された事も全て許されなくなる。大人としての自覚を持たなければいけない。
人生の中でやれる事は高校生の時よりも広がっている。それなのに成人すると今の社会に窮屈さを感じてしまう。

体を縛り付けている手枷、足枷がなく自由に世界の楽しさを謳歌する事の出来る生活。それが高校の学園生活なのだ。
まぁ、作中の事を現実でやれば高校生でも十分警察沙汰になるが。


後書きの後書き

法律は守ってネ。


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本当は二年生も書こうと思っていたんだけど内容が冗長化するし区切りもよかったから一年生で終わりにしちまった。
後輩としてジェスターとキューが登場予定だったんだがエター。


ジェスター
「キューはまだ何回か出てたけど私が一回も出ていないんだけど。怒るよ?」





ディバン
「俺を忘れるな。」

ディバンはキュピルの父を予定していた。